收藏

ソフィア・コッポラ 作品編集

「それを試しても意味がないんじゃないの。あんたがむかしやった仕事をばらす気がないと向こうが受け取ったとしても、それであんたの命を狙うことを止めるわけじゃないでしょう」 「そりゃそうだな、たしかに——」 「ばらす? 予告どおりに、六件の殺しを」 「それをゆうべからずっと考えてたんだよ。ばらすのは簡単だ。いつでもできる。だが、おれのいまの敵は、その六件の殺しの依頼人の中の一人だ。残りの五人の依頼人は、言ってみればおれには客だった連中だ。大金を払ってくれた客だった。その客たちを、一人のためにうろたえさせるのもどうかなって気がするんだ」 「わたしは、あんたにどうしろなんて言えないわ。命を狙われてるのはわたしじゃなくてあんたなんだから。そりゃ、あんたのつぎはわたしがターゲットにされるのかもしれないけど——」 「もう少し考えてみるよ」  おれは言った。かすかな失望があった。タイ人の殺し屋が使うレックチャーで、松永敏恵が何かを思い出し、それを話してくれるかもしれない、といった期待は、空振りに終わった。 「シャワーを浴びてくるわ、わたし——」  松永敏恵は言って立ちあがった。 2  おれはその後も図書館通いをつづけた。  活字はおれの苦手な分野だった。辛気《しんき》くさい時間に耐えるには、根気と執念に支えられなければならなかった。それが救いだった。根気と執念だけは、おれは十分に持ち合わせていた。  ひとつの目安が生まれていた。おれはレックチャーと呼ばれている凶器にこだわっていた。かつておれが仕事として関わった六件の殺人事件に関する、当時の新聞と週刊誌の記事の中に、外国人の影のちらつくものがないかどうかに、おれは特に注意を払った。  それがほんとうに探し物の目安になるかどうか、もちろんわからなかった。  図書館での仕事ははかどらなかった。おれはしかし、諦めるつもりはなかった。さし当たっては、古い日付の新聞や週刊誌の活字の中から、敵を探し出す手がかりをつかみ出すことしか、方法がなかった。
表示ラベル: