パネライルミノールマリーナレプリカ
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null「どうやら事態をもっとも把握《はあく》しているのは、おまえだけのようだ」  ケアル、と父が息子の名を呼ぶ。 「これよりマティン領に停泊中のデルマリナ船へ赴き、乗組員の安否の確認、場合によってはその保護をしろ」 「父上っ! その役目は私が!」  叫ぶように申し出た長兄に、父は「おまえには無理だ」と言い放った。 「いいえ、できます! きっと、父上のお役に立てると思います!」  なおも言い募る長男を完全に視界の外において、父はケアルに訊ねた。 「できるな?」 「——はい」  一瞬のためらいのあと、ケアルはしっかりとうなずく。 「家令は、好きなだけ連れて行け。むろん伝令を連れて行っても構わん」  領主のこの言葉に、三人の家令は大きく目をみひらいた。家令たちの人事権は、領主にのみある。それをこの件に限るとはいえ、他者に譲るとは——それも、後継ぎのセシルではなく、島人の女に生ませたケアルなどに。かれらの驚きと憤慨《ふんがい》はいかほどのものか、ケアルにもわかった。 「いいえ、父上。この場合、人数を引き連れて行くより、ひとりで行ったほうが、デルマリナ船を占拠する者たちも油断すると思われます」  そうか、とライス領主はうなずいた。同時に三人の家令たちも、ほっとした顔をみせる。 「ただしライス領内の近い島に、伝令を待機させておこう。もしもの場合は、泳いででもその島へ避難できるように」  父は地図を睨みつけながら、伝令を呼んだ。伝令たちも交じえて、船にできるだけ近く、翼の発着所が整備されている島を捜す。 「——やはり、ここだな」  決まったそこは、デルマリナ側から港をつくるにふさわしいと候補にあがった島だった。伝令たちとともに、あわただしく執務室を出たケアルは、最後に険しい視線を感じて振り返った。だが、それが兄たちから向けられたものなのか、家令たちからのものなのか、ケアルにはわからなかった。